日日(にちにち)のまなざし
2020年2月28日(金) ~
3月22日(日)
三橋さんの染めによる表紙原画には、そこはかとない詩情が漂っている。季節ごとの風物や自然など、作者の心に映じたイメージが、柔らかな色彩と、確かな観察眼をもとにしながらも、どこか遠い記憶を探るような感覚で表現されている。描かれた題材は、食べものや草花、小さな行事など、ほとんどが日常の身の回りにある事物を対象にしている。そうした何気ないものに、季節の移ろいを日々の暮らしの中で常に敏感に感じとっていることがわかる。かつて、季節は生活の中でくっきりと象られていた。そうした原風景が、1点1点の作品から、色濃く立ち上がってくる。とはいっても、これらの作品は、過去の郷愁を描いたものではない。現在の日常生活で、心に響く事柄を、三橋さんならではの感性で、矩形の小宇宙に表現したものだ。画風は、むしろ現代的といえる。それぞれの原画には、短い文章が添えられている。簡潔だが、ふっと気持ちを和ませてくれる、穏やかな味わいがにじむ。表紙原画は、染織と生活社が2008年5月号から2020年3月号まで、途中リニューアルのため2014年1月号から3月号までの休刊を除いて、発行した「染色情報α」の表紙に毎号掲載されたものだ。数えてみると、ちょうど140点制作していただいたことになる。今回の展覧会では、その中から自選した約50点が展示される。三橋さんは、染めの平面作品にとどまらず、木、薄布、金属、石などのミクストメディアによる、非日常の世界と交感するような、繊細な感覚の立体作品でも知られる。今展では、そうした立体作品も展示される。表紙画面は、創作の原点である、染めによる創造の世界を、良質の料理を味わうように楽しませてくれる。
出品作家名
三橋遵