写真と染のまじわるところ

2020年4月10日(金) ~ 4月17日(水)

「写真」と「染(染色)」は現代において、ともに美術的な表現行為の1ジャンルと認識されている。それでは、ともに表現行為である「写真」と「染」が「まじわる」とは、どういうことか。写真に軸足を置いて考えれば、染とのまじわりは撮影や現像よりも焼付において生じることがまず考えられよう。写真を焼き付ける支持体としては印画紙が主要な位置を長く占めてきた。シルクスクリーンやインクジェットの技術が発達し、紙とは異なる柔軟性に富んだ布へのプリントが容易になった今、写真の表現は新たな可能性の広がりを獲得したといえる。一方、染に軸足を置いて考えるなら、写真とのまじわりは図案の制作段階に変革を及ぼしている。伝統的な染色は、動植物や風景などの写生を基に模様を考案し、作品の図案としてきた。前記のような技術の発達は、写真を作品の原図として活用する道を開いた。ただし染の作家が写真を活用する理由は過程の省略よりむしろ、世界をよりリアルに作品へ映し込む意図や、手描きの図案に残る人間臭さへの違和感にあるのかもしれない。彼らは写真に世界を感じて育ち、ミニマルアートや工業デザインのシャープな美に親しんできた世代でもある。染の原図として写真を活用する実践は、アパレルの分野で日常的にみられるものの、美術としての染色においてはまだ多数の作家が取り組むところではない。今展は、歴史を刻み始めた「写真と染のまじわるところ」を主題に、染に軸足を置きつつ、作家5名が構想と制作の力を駆使して到達した作品を紹介する。今展は毎年京都で開かれる国際写真祭KYOTOGRAPHIEのサテライトイベントKG+のオフィシャル展覧会として計画したが、新型コロナウイルス感染拡大に伴いKG+の会期から外れた時期の開催となったのは残念だが、今展が染あるいは写真に関心を抱く多くの人たちの眼に触れてなにかを触発する契機になればと願っている。

※コロナウィルス感染症拡大に伴い、緊急事態宣言発令を受け4月10日~5月5日の会期を4月18日より臨時休館

出品作家名

井上康子/賀門利誓/むらたちひろ/室田泉/八幡はるみ