「ヒビノクラシ」完結記念 蠟絵染・松本健宏展~いのちの交響~

2019年4月5日(金) ~ 5月6日(月)

京都在住の気鋭の染色作家、松本健宏さん(1967年生まれ)が10年がかりの大作「ヒビノクラシ」を完結させたのを機に、お披露目の個展を開きます。「ヒビノクラシ」は、松本さんがアトリエを置く京都府綾部市の古屋地区を題材にしています。存在感のある大きな山と、ふもとを流れる清らかな川。その間に築かれた小さな集落の暮らしを、白と黒の簡明な色彩で描きます。茅葺きの民家で、人びとは生まれ、感謝とともに、食事をし、生を全うしていく。描かれた山村の暮らしは、現代の都市文明からみれば、これも至って簡明です。けれども、大量生産された物質の洪水、そして情報の洪水にさらされるうちにわたしたちが見失ってしまった真実が、その暮らしには息づいている。生の本質とはなにか、生きるということはどういうことか。そうした根源的な思索へいざなう力が静かな作品に込められています。2009年に蠟けつ染のパネル2面で発表した作品を、作家は年を追うごとに拡充し、16面、横幅14.7mの壮大な仕事として完結しました。悠久の自然のなか、動植物とともに人びとが連綿と受け継いできた暮らし。その"いのちの交響〟を、広々とした画面のなかに心を遊ばせながら鑑賞していただきたくおもいます。今回は、2004年の初個展で公開した京都府伊根町の舟屋を主題とする連作もあわせて展示します。遠い記憶から紡ぎ出された色鮮やかな花火や灯りが印象的です。詩情豊かな松本芸術の世界を、ぜひご堪能ください。

出品作家名

松本健宏

「ヒビノクラシ」について
集落の佇まいに昔から興味を抱いており、限界集落の言葉を知って、綾部市睦寄町古屋と言う集落に辿り着いた時、こんなに寂しく厳しい集落があったのかと、驚きと感動を抱き、100キロの道を通い続けた。スケッチの際、村のおばあさんに声をかけられてから深い交流がはじまる。寂しかった集落のイメージが逆転し、安らぎと心清めてくれる大切な場所に変わった。集落は京都府で最小の村、奥には何百本もある栃木の群生地。90歳を越えるおばあさんたちは移動手段にバイクを乗りこなす。知れば知るほど古屋の魅力にはまり込んで行く。空いた土地にアトリエ小屋を建てさせて欲しいと申し出るも、村の人や役所の方々の計らいで古屋集落の空き家を譲り受け、そこで「ヒビノクラシ」制作を続ける。松本の制作の根っこは、「人間とは何か」である。京都市内での家族の暮らし、福祉施設での係り等、そして古屋集落の自然と村人からは、「慎ましく生きながらも、逞しく生きる人間の生命力」を教えられていて、それを「ヒビノクラシ」制作に染めこんで行っている。