兼先恵子 ー源氏を染めるー

2021年1月15日(金) ~ 2月7日(日)

2021年の幕開けの展覧会として「兼先恵子 源氏を染める」展を開催します。兼先恵子(1951年生まれ)は池坊短期大学で染色作家の西嶋武司に型染を教わり、卒業後に公募展で作品の発表を始めました。76年から出品してきた日展で2008年に特選を獲得したのをはじめ、日本新工芸展で2015年に内閣総理大臣賞、京展で1985、87年に市長賞を受賞。2008年の京都工芸ビエンナーレでは「源氏物語」を主題とした特別記念テーマ部門で大賞に選ばれるなど、古希を迎えるこんにちまで第一線の染色作家として華々しい活躍を続けています。作品は、男女の手や女性の黒髪を大胆に配した象徴的な構図がまず注目されます。絡み合う手が激情を伝え、恋文を持つ手が心の揺らぎをうかがわせるなど、手の表情に託した心理表現は卓抜で、クローズアップされた一場面から展開していく物語を感じさせます。衣装を色彩豊かで文様もリアルに描くのに対して、手や顔の輪郭は個性を持たない線描とし、人の感情の普遍性を巧みに示します。型染の特徴である平面性と明快さを存分に生かした作品に、近年はステッチの刺繍も加え、表現の幅はさらに広がっています。ライフワークとして1998年から「源氏物語」を題材に連作を手掛けており、今回は上記の大賞受賞作や新作も含めて、15あまりの帖から想を得た作品を一堂に展示します。着物や屏風が、パネルや壁掛けが、光源氏と女性たちの愛と哀しみのエピソードを語りかけます。古典文学から人間の深奥に迫る兼先源氏の創作世界を、どうぞお楽しみください。

出品作家名

兼先恵子

源氏物語をテーマに作品を染めはじめて20年余りが経ちます。読み解くほどに、時を経ても瑞々しい平安の世の世界観と男女の愛情の機微に心ひかれてイメージが膨らみ、染めたいという気持から制作を始めました。源氏をとりまく女君達の人生観が生み出す悲哀、憎悪、妬み、喜びなど物語の一帖一帖に心を寄せて表現へと繋いできました。平安の世の時間の流れは優雅でゆったりと過ぎ豊かです。時間に追われる現代社会から離れて、人と人との肌の温もりや営みが、何よりも大事であったであろう源氏物語の世界観を、このコロナ禍の殺伐とした時間の中で感じていただければと思います。