行為と現象Ⅱ 本野東一へのまなざし

2021年5月14日(金) ~ 6月6日(日)

染・清流館は「行為と現象」と題する展覧会を2018年10月に開催しました。今回は続編にあたり、物故作家である本野東一の作品と、現在活躍中の舘正明、加賀城健、むらたちひろ、坂野有美の4名の作品とを一堂に展示します。「行為と現象」とは、染色における素材(生地や紙、染料、防腐剤、媒染剤など)が引き起こす「現象」を、作家が「行為」によってどのように引き出すか、という関心に基づいて掲げた主題です。もちろん、すべての染色に行為と現象はつきものですが、和装とともに発展してきた日本の染色文化では、花や蝶、鳥などのモチーフを図案化し、色のむらや滲みを抑えつつ生地に美しく染めることに主たる意識が向けられてきました。そうした目的を実現するという枠内において、現象をコントロールする行為が求められてきたわけです。近代までの西洋絵画において、風景や人物をいかに描くか、ということに画家たちが腐心したことを想起します。絵画がその後、抽象を経て、アクションペインティングなど画家の行為そのものを示す表現に達したことは、ご存じのとおりです。もちろんモチーフの写実的な抽出が顧みられなくなったわけではありません。絵画の地平が広がった、と理解すれば良いでしょうか。日本の染色においても、抽象表現の世界的な流行から受けた影響は無視することができません。特に第二次大戦に敗れた後、旧弊に反発する時代の気分も手伝ったのか、和装の域に収まらない新たな創作が奔出します。モダンアート展などを舞台に活躍した本野東一(1916~1996)も、幾何学的な色面で構成した抽象的な作品で知られています。同時に、滲みなど蠟染の偶然性をも表現に取り組んでいるのが興味深いところです。今展は「本野東一へのまなざし」を副題に掲げ、当館が所蔵する本野作品から2点を、他の出品作家4名他の出品作家4名が選びました。この作家たちも、それぞれ「行為」と「現象」について旧来の枠に収まらない探求を深め、独自の制作に取り組んでいます。染色作家としては後輩にあたる4名が、本野の作品をどのように受け止め、どのように自己の表現で応えるか。本野と4名の作品をとおして、新たな発想による「行為と現象」により広がった染色の地平を、どうぞお楽しみください。

出品作家名

加賀城健/坂野有美/舘正明/むらたちひろ/本野東一