個人作家たちによる創作染色が始まったのは、厳密にいえば第2次大戦後である。日展、新匠工芸展、日本伝統工芸展、後に日本新工芸展がつくられ、また重要無形文化財保持者(人間国宝)の制度ができて、型絵染の稲垣稔次郎、友禅染の田畑喜八・上野為二・森口華弘が指定された。この4人と小合友之助などを創作染色の第1世代とするならば、本展の佐野猛夫、三浦景生、来野月乙は第2世代である。
三浦はいう。「小合友之助先生に巡り会えたのは、私にとって運命的といえるもの」であり、「稲垣稔次郎先生には溢れる香りに似た純粋さを感じた」と。このことは、京都市立芸術大学染織科において、2人の後を佐野、三浦、来野が継いだことにもあらわれている。
本展はこの3人の1960年代と70年代の「ノン・フィギュラティフ」(非具象)作品を展示する。「非具象」は「具象にあらず」だから「抽象」と同じだと考えられがちである。しかしこの語は美術史的には限定された意味で用いられる。つまり「非具象」とは、具象と抽象の中間の特殊な傾向を指し、この時期の3人の作品に共通している。
かれらの考えによると、人間の視覚は自然と密接に関係していて、自然の印象が作家のヴィジョンを養う。したがってその作品が外観的には抽象に見えても、自然対象に精神的操作を加えて、心のるつぼの中で溶かしてから出すので、「抽象」とは異なる。つまり、外的印象から出発しながら、それを心的世界の表現に昇華させるのである。このように抽象に接近しながらも、これと一線を画し、つねに自然の生命にふれようとするが故に、かれらの立場は「非具象」なのである。
もとより、そのあらわれ方は3人3様である。佐野は流動的な風水の世界を、三浦は植物の精を、来野は鳥や人物の生命を志向しつつ、自然性と精神性の割合を微妙に変化させて、それぞれの作品の芸術的内容を深化させて行った。