自然のダイナミズムを、緻密な構図、型絵染特有の文様の繰り返しなどによって表現された伊砂新雄氏の作品からは、凝縮された染色美が律動的に響いてくる。これまで、移ろう四季の中で咲きほこる草花、山野や海の情景、あるいは能楽の世界などを主題に制作されたその作品は、対象を直接的に描写した単なる叙景ではない。連続したそれぞれのモチーフを貼り交ぜのように配置し、全体の色面を構成することで、緊張感のあるイメージを喚起するのが、伊砂氏の型絵染作品の特質の一つだといえる。
伊砂氏は1941年に京都で生まれた。稼業が染色業であったことから、若くして染色に携わった。仕事としての染色は、ろう染めが中心だったというが、その過程で多種多様な技法を習得した。また、染色界全盛期の、現在ではおそらくもう見られないであろう職人の卓抜な刷毛捌きなど高度な技を垣間見たことは、得難い経験になっているという。
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