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 民話や祭り、あるいはアフリカの草原などを題材に、豊かな物語世界を表現する田島征彦氏の型染作品には、宙を飛び、飛翔するイメージがよく登場する。デフォルメした人物であったり、ときに動物であったりするが、表現に独特のダイナミックな躍動感を与えている。それは、初期の作品「ぽんぽんぴいぴいこまさらさら」から近年の作品までほぼ一貫する田島作品の特質のひとつといえる。  1940年、大阪府堺市に弟の征三と一卵性双生児として生まれた。5歳の時に高知の山里に移住、自然に囲まれた少年時代を過ごし、京都市立美術大学染織図案科に入学する。当時、指導陣に稲垣稔次郎、小合友之助の両巨匠が健在で、染織を学ぶには最も充実している時期だったが、劇団「アトリエ座」の活動に打ち込む一方、日展を代表とする既成の権威に反発しながら前衛的な表現を模索する学生時代を送った。専攻科に進んだ1963年に、先輩の麻田脩二、志村光広などと染色集団「無限大」結成に参加、三度黒で制作した土俗的なエネルギーにあふれた黒一色の作品を発表し、新しい染色表現を目指した。また、型染も版画の範疇に含まれるという思いから、1965年から日本版画協会展に作品を出品し、それは50年近くになる現在も続いている。  1976年に、初めての絵本『祇園祭』を出版。型染で制作されたこの絵本は、世界絵本原画ビエンナーレで金牌賞を受賞するなど、国際的にも高く評価された。また田島征彦の名を一躍有名にしたのは、1978年に刊行された絵本『じごくのそうべえ』である。今なお人気の高いロングセラーで、「とざい、とうざい」で始まるこの絵本は、多くの人が、子どもの頃や、また自分の子どものために、目にしたことがあるだろう。田島氏の一連の絵本は、それまでなかった型染の絵本という新しいジャンルを生み出した。  大樹の精霊、沖縄のキジムナー、羅漢など、土俗的なモチーフに託して自然への畏敬、自然破壊への怒りなどを表現してきた作風ががらりと変わるきっかけが、南アフリカへの旅であった。地平線の見える広大な大地で野生動物たちが息づいている光景を見て、これまでにない開放感を感じた。明るい色調の画面にシマウマが飛翔する自然讃歌の作品「サバンナ」シリーズが誕生する。  現在、幅2m50㎝、長さ14mの長大な作品を制作している。この6月から7月にかけて、染・清流館で開催される「祇園祭展」に出品するためだ。千年以上も続いてきた祇園祭を支えてきた町衆のエネルギーがみなぎる大作が会場を飾る。  かつては丹波八木町で、いまは淡路島で、畑を耕しながら制作に取り組む日々を送る。最近、仕事がとても楽しいという田島征彦氏の創作活動は、染色美術の枠を超えて、広い世界で躍動している
佐藤能史(染織と生活社編集長)

 

 

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