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 今年の3月、京都市立芸術大学教授を退任した内藤英治氏は、ほぼ一貫して藍による型染の作品表現を追求してきた。この1月に行われた退任記念展には、1970年代から近年の代表作までを一堂に展示し、その業績を俯瞰した。京都芸大には、型絵染の人間国宝・稲垣稔次郎から山脈のように連なる型染の伝統がある。その嶺を形づくる染色作家の1人である。  まだ学生であった1971年に三度黒で染めた型染作品「牛」が京展に初入選、若くして作家の仲間入りを果たした。1973年に専攻科を修了後、教鞭を執ることになった神戸の短大で藍染に出会う。藍液に布を浸け、空気に触れると、色が変化して藍色に染まっていくという現象に不思議な感覚を抱いた。藍を染める行為は能動的だが、染色自体は受動的であるという特質、そこに大きな魅力を感じて藍染による作品制作を行うようになる。  当初、水面の一刻なりともとどまらず様々に変化する波の表情を、型染の簡潔な形象と藍の濃淡で制作することに取り組んだ。ゆったりとたゆたう穏やかな波の情景を、紋様のように純化したフォルムで表現した1976年の作品「春陽波紋」は、第15回日本現代工芸美術展で現代工芸賞を受賞した。波シリーズでは、5年ほどの間に53点の作品を制作し、あらゆる波のバリエーションを表現し尽くしたと感じたあと、その写生への行き帰りに目にした光景が題材となる。稲を刈ったあとのリズミカルな田圃の様子、川辺に揺れていた葭の叢生など、自然の情景をモチーフに作品化した。さらに山容を、時には部分的に植物染料の色彩を用いながら、複合的な視点による立体感で、今にも迫ってくるような雄大なスケールの作品を制作していく。近年は、年輪を刻んだ樹木の太い樹幹や、祇園祭をはじめ各地の祭など、表現の幅を広げている。題材によっては、藍染に限らず、鮮やかな色彩で制作する。そこには、一貫して生存している「存在感」とそれを取り巻く「気」そのものを表現しようとする強い意志があるという。  藍による型染という手法は、形と色と二重の制約がある。内藤氏は逆にそれを表現の特質として、独自の染色世界を築き上げた。日展、日本新工芸展をはじめ多くの展覧会に作品を発表、数々の受賞を重ね、個展は国内外で20回を数える。教育者としても、約40年間、後進の指導に当たってきた。これからの作品制作では、もう一度原点に立ち返り、水をテーマにしようと考えている。流動的なものを型染で表現することで、その可能性に挑みたいという想いからだ。
佐藤能史(染織と生活社編集長)

 

 

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